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テクニカルレポート
排水処理

空気調和・衛生工学会Vol.86 掲載記事

4.1.2 特殊散気ノズルを用いた排水処理システム

1 はじめに

弊社の特殊散気管による水処理技術は開発から15年が経過しており、日本でも大手水処理ブランドメーカー数社、大手の製パン工場、焼酎工場、化学工場などに採用され、また、韓国の下水処理場に正式採用されている。ちゅう房排水や惣菜排水はもちろんのこと、鉱物油が混入する現場でも採用されている実績を持つ。

2 システム開発のきっかけ

1998年、某ホテルにおいて、硫化水素の発生に困っているという話を頂戴し、その対策として、依頼を頂戴した会社と共同で、特殊散気管を開発し設置したところ、硫化水素が発生しなくなっただけでなく、加圧浮上装置を使用しなくとも、ばっ気槽だけで処理が完結し、加圧浮上から排出される汚泥処理費用、年間1200万円を削減することに成功したことがこのシステムの発端となっている。

また、以前は、水面に浮いていた油にコバエが卵を産んで大量発生し、配管を伝ってホテル室内に侵入していたが、浮遊していた油がなくなったので、そのコバエが居なくなったという効果も生じた。

3 基本的技術

気液衝撃混合型の水中散気装置
図-4.4 気液衝撃混合型の水中散気装置

滝壺や波打ち際など水が激しくぶつかり合う場所には、昔から浄化能力があるといわれてきた。

浄化の“浄”の字もまさしく、“水が争う”という意味であることから、先人はすでに理解していたものと思われる。平成9年に日本海沿岸でナホトカ号が座礁し、重油が流出するという大事故が発生したが、その4念後のNHKの調査においては、その痕跡を見つけることが困難なくらいにまで回復していた。これも波打ち際のなせる技と認めざるを得ないところであろう。

そうした原理を応用し、水と空気を激しく衝突させて混合することで、その物理的な衝撃力を応用して協力な酸化を促すことのできる構造になっている、気液衝撃混合型の水中散気装置を開発してきた(図-4.4)。

また、その水槽内の水をいかに対流させて循環させるかということも浄化には非常に重要な要素であるが、同装置はそれも兼ね備えた技術となっている。

また、マイクロバブルや、ナノバブルを発生させただけの物理的な酸化分解には限界があると考えており、切っても切り離せないのが、微生物の分解能力である。

もちろん、微生物も人間のために有機物を分解するのではなく、自らの存続のためにエネルギー生成や細胞分裂を行っているだけなのではあるが、それを上手く利用することにより、最低限のランニングコストで処理が可能となる。

次項で本特殊散気管を利用した“好気的環境下”での理想的な微生物の活用方法を述べる。

4 微生物のエネルギー生成

“なぜエアレーションで水中に酸素を供給するのか”、“なぜ微細気泡が必要なのか”何を今さらと思われる方も多いと思うが、これを疎かにした設計が後を絶たず、トラブルが数多く発生している。

また、空気量を重要視しているのだろうが、下水道処理の計算式を絶対的なバイブルだと思って疑わない設計者のミスが目立つことも否めない。下水道に流入してくるBOD負荷は、精々200mg/Lに対して、食品加工排水ともなれば、BODが、1000〜3000mg/Lで流入することも通常である。しかし、BOD負荷に対して同じような割合のエア量の計算をしてしまっている場合が多く見受けられるので、エアレーションの基本目的をここで再確認させていただく。

好気性微生物を利用した好気条件での水浄化におけるエアレーションの目的は、溶存酸素濃度(以下DO)を上げ、それをキープすることである。では、なぜ溶存酸素が必要なのか。それは好気性微生物の代謝には酸素が必要不可欠であり、腐敗を防ぐことにあるのだが、これらは密接な関係にありそれをよく理解しておく必要がある。

好気性微生物は、我々人間と同じく“呼吸”を行い、有機物を取り込むことでエネルギー源であるアデノシン-3-リン酸(以下ATP)を合成する代謝を行っている。

水中のDO値が有機物の流入量および濃度に対して十分に確保されている場合には、微生物は酸素を使って好気呼吸を行うことができ、グルコース(ブドウ糖)1分子から最大で合計38分子のATPが生成される。しかし、逆に酸素が不足すると硝酸イオンや硫酸イオンを利用する嫌気呼吸となり2分子のATPしか生成されない。すなわち、酸素が豊富な好気呼吸状態では微生物も高活性化して激しく細胞分裂を行い、有機物をすばやく分解してくれるといえる。

また、酸素濃度が低くなると微生物の多くは硝酸イオンや硫酸イオンの呼吸に代謝を変化させる能力がある。これを“嫌気呼吸”という。嫌気呼吸を行った場合には、水素の最終受容体が酸素ではなく、硫化水素などの副産物を発生させてしまう。それが悪臭の原因となり、一般の好気処理の場合において悪臭がするということは、腐敗傾向にあり、分解スピードが遅く(代謝効率が悪い)、処理がうまく行われていないということである。

さらに、完全に酸素が失われると絶対嫌気性菌により“嫌気発酵”が行われ、酢酸やプロピオン酸などの低級脂肪酸が発生するのである(図-4.5)。したがって、この貧酸素状態を改善するだけでも処理能力は大きく上昇することになる。

ただし、従来方式の散気管の増設やブロワの能力を上げて空気量を増やしたとしても、エネルギー効率が悪化するだけでなく、処理としてもそれほど効果的ではないことを申し上げておく。なぜならば、酸素は排水中の生物化学的酸素要求量(以下BOD)が高くなればなるほど水中に溶解しにくくなり、確保することが困難となるからである。

例えば、BODが2000mg/Lの食品加工排水の腐敗防止できる最低限のDO値を1.0mg/L以上と仮定すると、排水1.0㎡に対して75.0L/min以上の空気量が必要となるが、効率の悪いエアレータや散気管を使用した場合には、たとえ75.0L/min以上の空気量を供給してもDO値は1.0mg/Lにはならない。

実際に弊社でもホテルのちゅう房排水において、現場で他社のマイクロバブル発生器を試してみたが、泡の発生している箇所でなんとかDO値が1.1mg/Lに至ったが、泡の発生箇所から10cmも両側に離れるとDO値は0.05mg/Lでしかなかった。

当技術は、DOを確保することが困難な隅々まで好気的な環境を作り出すことが可能となり、通常のエアレーション方式ではノズルや噴出口の閉塞や、エアレータより低い位置に汚泥が堆積する恐れがあるが、それも払拭しているので汚泥の堆積や汚泥発生量も抑制することが可能である。

図-4.6
図-4.6

では、実際に好気性微生物がどれくらいの酸素を必要とするのかというと、それは人間の想像をはるかに超えており、例えば同重量あたり、マウスの疾走時の酸素消費量を20μL-O₂/mgとすると、Acetobacterで1000μL-O₂/mg、Azotobacerに至っては3000μL-O₂/mgとなり、“大きさと代謝活性の反比例の法則”といわれている。以上のことにより、DO値の重要さをご理解いただけたと思う(図-4.6)。

ここで、上記DO値を確保するためのエネルギー効率について触れたいと思うが、上記条件を満たすためには、相当のエア量が必要ではないのかという、消費電力を心配される方もいらっしゃるであろう。しかし、本特殊散気管は、メンブレン式ディフューザーと比較すると、圧力損失が非常に低いので、同風量比で“45%も電気代が下がる”ことが公的機関において証明されており、浄化促進と省エネルギーが両立されていることも、大きな特徴である。

5 総括

効率よく酸素を供給して、その水をかくはんすることで、画期的な排水処理が可能であることを多少でもご理解いただけたとは思うが、この技術も結果オーライで、分解プロセスなどまだまだ判明していないのが正直なところである。

先日も、某製紙工場で循環水のにおいを消して欲しいとの依頼があったので、手持ちのポリドラム実験機を現場に持ち込んで実験を行ったところ、たった5分でにおいは大幅に軽減された。その際にORP(酸化還元電位)を計測していたが、“+90”の水が、わずか5分で“+7”にまで下がった。

このように、この技術は、私自身まだまだ多くわからないことがあるのだが、納入実績は先行しており、塗装工場などの循環水浄化の実績も多数あって、日本車で最高級ブランドの雨漏り検査ラインの循環水浄化にも本特殊散気管が使用されていることをお伝えして締めくくらせていただこうと思う(この工場では、発生するスラッジの92.5%が、無機の金属汚泥であったことで高評価を頂戴している)。

本文中、これまでの水処理設計を揶揄するような表現と取られ、不快感を持たれた方もいらっしゃるであろうが、実際に大金を支払って導入されたエンドユーザーのことをよく考えると、今後そのような不幸な出来事がなくなるようにと思ってのことなので、何卒お許しいただきたい。

[吉田憲史 (株)アイエンス]

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