第4話 弁当工場で悪戦苦闘の排水処理
原発の汚染水処理装置がうまく稼働していませんが、こうした処理プラントは、立ち上がるまでが本当に大変なんです。
今となっては、どれもいい思い出話ですが、私の昔話にお付き合いください。
本当にいい勉強になった、兵庫県内のK食品さんについてお話しさせていただきます。
K食品さんは、一日あたり12,000食ものお弁当を作っておられる会社さんです。2000年(平成12年)にアイエンスを立ち上げた当初、ベンチャーの水処理業者など、まともに相手をしてくれる企業はほとんど皆無でした。 アイエンスを立ち上げるきっかけとなった、2件の在阪一流ホテルでの排水処理水槽の改造実績しか無かったからです。それなのに、興味を持ってくださったのが、K食品さんのJ部長さんでした。
「現在は、加圧浮上処理を行っているが、処理も芳しくなく悪臭が発生して近隣から苦情がきている。」と困っておられる様子でした。アイエンスの水処理の大きな特徴は、散気管で酸素を豊富に供給し、微生物に『酸素呼吸の代謝』をしてもらうので、硫化水素や脂肪酸などの悪臭がほとんどと言っていいほど発生しないことなんです。そんなこんなで、当時はたいした実績も無い訳の分からない会社にご発注いただけたのです。ただ、幸いなことに、販売窓口が住商マシネックスさん、土木工事が太平工業さんと著名な会社さんと組ませていただくことができました。これが最初のツキでした。
ところが、設備が完成して実際に水処理が始まったのですが、いくら頑張っても設計通りに処理されません。
「どうしよう……」(関西弁では、どないしょう……)と食事ものどを通らなくなり、本当に死ぬほど焦りました。正直言って、立ち上げた翌年にも関わらず「これでアイエンスは終わった……」と思いました。また、毎月のようにK食品さんの重役も含めて20名ほど出席される会議に呼び出され、「どうしてくれるのか?」と責め立てられました。無理もありません。何千万円と投資をしてくれているわけですから、私も責任感に押しつぶされそうでした。当時、逃げずに必ず一緒に出席してくれた住商マシネックスの西岡さんには、一生頭が上がりません。(本当にありがとうございました。)
色々な解決策を講じ、アイエンスの経費で手直しをさせていただきましたが、思うようにいかず、1年半の悪戦苦闘が続いたのです。
K食品さんに設備を納入(平成13年)して1年半が経過し、悪戦苦闘しておりましたが、契約の放流値まであと一歩届かない状態が続いており、精神的にもかなり追い詰められていました。さすがに万策尽きたかに思われたとき、毎度のこと会議で崖っぷちに立たされた私は、その席で「今更ながらですが、原水の処理水質をいま一度確認して欲しい」と堪り兼ねて思わず発言してしまいました。もし原水水質が設計値通りならば、すべてアイエンスが責任を被らなければならない、一か八かの大博打発言でした。それが容認され、24時間連続で原水データを採取したところ、平均値でなんと設計負荷の2倍にもあたる高い数値がでてきたのでした。設計前に何度か水を採取しておりましたが、たまたまその時間に流れてくる水は、比較的きれいであったことが、その時になってはじめて判明しました。事前に詳細な確認を怠ったためで、このことは今でも大きな教訓となっています。
そこで、負荷計算をすると、設計以上の性能で浄化していることが分かったので、残金を請求しましたが、「工場内でも排水改善するので、待ってほしい」と言われ、苦しいながら待つこと半年、J部長から「放流水が契約の排水基準値になったから、残額を支払う」と連絡が入りました。
どうして急に処理ができたのか不思議で調べてみましたが、水槽内のコンクリート壁一面にそれまで無かった微生物の棲家ができているようで、直感的にこの微生物が助けてくれたような気がしました。あとは、散気管 アクアブラスターがその微生物にしっかりと酸素を運んでくれたのでしょう!
とりあえずは、めでたしめでたしで残金もお支払いいただき、更に2年ほど経過した平成17年頃でしたでしょうか、K食品の安川常務から、「一度社に出向いて欲しい」とご連絡を頂戴しました。なにか不具合でもあったのかと恐る恐る扉を開けますと、そこには予想に反して朗らかな表情で、安川常務が待ち受けておられました。 そして、「御社の水処理技術はたいしたものだ!」と信じられない言葉が耳に入ってきたのです。安川常務のお話によると、「設備を導入して5年近くになるが、以前のような悪臭も無くなったし、ランニングコストが激減したので、もうすぐ設備費用を償却できる」とのことでした。また、安川常務が「来月で定年退職を迎えるが、その前に会議であなたを責め立てたことを是非ともお詫びしたい」と若造に深々と頭を下げてくれたのです。地位も名誉もあるような方が、私のような人間に謝ってくれる潔さと、その優しさに感動し、これまでの苦労が走馬灯のように駆け巡り、目頭が熱くなって涙をこらえるのがやっとでした。
このときの感動は、今でも苦しいときの大きな糧となっています。K食品さんでの体験は、自分の実力の無さ、経験の無さを露呈した現場で、この時の経験をもとに設計を進めることで、その後の処理性能が安定してきたことは、本当に感謝の限りです。